top of page

動画よりも活字よりも、見たくなる — 不思議な写真集を「解体する」

4 日前
読了時間: 4分

風呂場の湯船に浸かって小説を読んだりタブレットでYOUTUBEのニュース動画を観たり、食事のあと、コーヒーを飲みながら写真集を眺めたりなど、これらのこと — 何かを読んだり・観(見)たりするのを、自宅で過ごす自由な時間に私はおこなっている。

その中で、「読む」や「観る」に比べて、特に最近は「見る」に時間を割くことが多い。写真家の本や美術雑誌のバック・ナンバー、画家の作品集や図録などを本棚から取り出してよく見ている。


その中でも気に入っているのが、スティーブン=ショア『作品集』だ。


これは、カラープリントの写真がアートとして認められ始めた1970年代の初頭より活躍している彼の、スペイン各地でおこなわれた大回顧展にあわせて作られた解説本で、これまでの仕事と業績についての記事だけでなく、キャリアにおいての彼の代表作の写真が数多く収録されている。その大きさは最大23×27センチで、たとえば有名な写真集である『American Surface』や『Uncommon Places』ならその全ての写真が載っていて、見ごたえがある。


やはり、最も評価の高い『Uncommon Places』のページの写真をよく見ている。

この作品は、1973年から81年の間、ショアが北米大陸を旅し、アメリカ西海岸・中西部・南部・東部、さらにはカナダの一部にまで渡って当時の都市風景を象徴する建物や道路、モーテルの内部や街角のショー・ウィンドゥなどをカラー・フィルムで記録してまとめた写真集だ。


タイトルの『Uncommon Places』は、「一般的でない、珍しい場所」という意味だが、これは、よく考えられた彼なりの皮肉だ。

なぜなら、収録された写真はすべて、裏通りのマーケットの横に積まれた野菜箱や、国道沿いのガソリン・スタンド、ドライブ・インの駐車場、田舎の地方裁判所の建物と食堂のテーブルの上のパンケーキといった、どれも「ありふれた、どこにでもある」ものがモチーフになっているからだ。それなのに、写真は平凡でも退屈でもなく、いつまでも見飽きることがない。

その大半の写真が、カメラを水平・垂直に三脚にどっしりと据えて撮影されたものであると解説文には書いてある。そのようにして、その「さして珍しくもないもの」を安定した構図で写し取ることで、見慣れた場所や当たり前に見かける物をまさしく「Uncommon」な写真として提示することに彼は成功している。


そんな『Uncommon Places』を私が好きであることは言うに及ばずだが、YOUTUBEよりも小説よりも、今この写真をみることのほうを好んでいるのは何故なのか。

余暇を使って、頭にインプットしたいことは色々ある。たとえばニュースを観ること、本を読むこと。あるいは音楽を聴くことでもよい。それらの行為の全ては、日頃の不安や実生活上での精神的負担からの解放であったり、心の豊かさの純粋な享受といったいわば「快さ・心地よさ」の獲得が目的であり、言い換えれば娯楽である。因みに、同じインプットでも、知識を得るための読書やニュースを観て何かを学ぼうとすることは「仕事の一部」であって、余暇の行為(=娯楽)とは言い難い。


本を読むこと、タブレットで動画を観ること、スティーブン=ショアの『Uncommon Places』を見ること — この3つには、視覚情報としての本質的な違いはあっても、それぞれの内容についての優劣は測ることはできない。私が『Uncommon Places』を見るのは、40年前以上の、北米大陸の見知らぬ街の醸し出す雰囲気と、その土地の風俗・大衆文化を写真から感じることができるからだ。その非日常性が、むろん普段は実生活に向けられている自分の感覚(視覚)に休息を与えてくれる。この安らぎの効果は、たとえば紀行文と本で読むことでも、旅行番組をYOUTUBEで観ることでも同じく得ることができる。


だが、読書や動画の視聴では獲得できない「快さ・心地よさ」というものがる。それは「視座と視界の安定性」だ。

仕事や家事といった経済活動をしている時に、目の前にある場所を、立ち止まって視線を固定して落ち着いて見ることはほとんど無い。しかし、余暇に『Uncommon Places』を見ていると、それができるのだ。眼前の風景や物体を視線を上下することなく、そして水平に安定した視点で見据える。動いているものも完全にブレることなく捉えて、しかも手前から遠くまで同時に焦点を合わせて正確に「見る」。

これが、写真を見ることで得られる非日常性に加えて「見る心地よさ」を与えてくれるのだ。


キャリアの初期を除き、スティーブン=ショアが撮影した写真は、以上のように画面の安定感に優れたものがたくさんある。


これからも彼の写真を、私は見てゆくだろう。

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page