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まちにあるものたち(文の着想を、写真から得る)
大師線の鈴木町駅に停車しているあいだの車内で、自動ドアの開いている出入口の脇に立って出発を待っていると、さとう醤油を焦がしたような甘いにおいを外の空気から感じる。それは例えば、駅の近くの売店から流れてくるというような局所的なものではなく、もっと、この一帯に広く漂っているような感じで、におってくる。 京浜工業地帯の一角を担う神奈川県・川崎市。その中心にある川崎駅から多摩川の最下流に沿うようにして京浜急行電鉄の大師(だいし)線は走っている。「鈴木町」(すずきちょう)は始点である川崎駅から数えて2つ目の駅だ。 なぜ、鈴木町では甘いにおいがしているのか。 以前、大師線沿線の工業地域に暮らす人にそのことを訊くと、この駅の近くにある大きな食品工場では家庭用のうま味調味料を製造していて、その原材料である「グルタミン酸」の甘い臭気が一般の地域にまで流れ出てきている ― そう教えてくれた。 この駅で停車中に、このにおいを感じることで、ここは製造業の都市・川崎であるということを今いちど識(し)ることになる。 春の終わりの、あたたかな日の午後。今日は、川崎駅からこの
3 日前読了時間: 5分


新宿の大久保公園に行った目的は、90分間のハピネスを買うことだったのだ。
彼女のことを、撮ることができるのではないかと思った。 東京・JR新宿駅を東口から出て「歌舞伎町一番街」を抜けて歩いてゆき、さらに北に — JR線の新大久保駅方面に向かう道順で歩くのが好きだった。 土曜日の午後。歓楽街の中心は賑やかだが、はずれのほうに進むと通行人は多くない。BARや居酒屋、ホスト・クラブや焼肉店 ― 昼間に営業はしていない料飲街の裏道を歩いて、閑散とした通りの全景などを何とはなしに、持っているカメラで写真に撮る。そのような休日の使い方が私は好きだった。 東京・新宿の、いわゆる歌舞伎町と呼ばれる街区の北のはずれに小さな公園がある。フェンスに囲まれたバスケットボールのコートと数組のベンチとアクリル製の衝立に囲まれた喫煙所が端にある、そんな程度の公園だ。 そこまで歩いて、タバコを取り出し火をつける。ここに来る途中で買っておいた缶チューハイのふたを開ける。喫煙所には他にだれもいなかった。 喫煙所から少し距離をおいて2組のベンチが並んでいる。 こちらに近い方のそれに、彼女は座っていた。吸い終えたタバコをもみ消して、缶チューハイを半分ほ
3 日前読了時間: 5分
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